キョーリン宇宙への挑戦
メダカの宇宙食への挑戦
1994年、コスモ、元気、夢、未来と名付けられた4匹のメダカが、スペースシャトル「コロンビア号」で15日間の宇宙旅行を行いました。
この時の実験から、宇宙(無重力)でもメダカが産卵出来ること、さらに生まれた卵からメダカが無事にふ化する事が確認されました。これまでに脊椎動物が無重力下で繁殖した例はありませんでした。
将来、宇宙で人間が生活出来るようになった時の食糧源として魚が有力な候補になっています。無重力下でメダカが生んだ卵が孵化し、生まれた子供が無事に成長すれば、宇宙空間や月面基地で魚の養殖の可能性が将来的に開けてきます。
無重力の宇宙空間でメダカを飼育するためには、特別な飼育設備と設備に合わせた専用の宇宙食が必要となります。
宇宙開発事業団から依頼されて、世界で初めてとなるメダカ用宇宙食の製造を請け負ったのが弊社です。
エリートのメダカ達
宇宙空間でメダカが産卵するためには、無重力空間でも回転してしまわないメダカを探す事が必要でした。
メダカも重力によって方向を認識しているため、無重力では方向感覚を失って、ぐるぐると回転つづけてしまいます。ジェット機を使った無重力実験を繰り返した結果、無重力空間でも回転しないメダカの系統が発見されました。
この系統のメダカは視覚を使って方向を認識していると思われます。
スペースシャトルで宇宙に旅立ったメダカは数多くのメダカ達から選ばれたこの系統のメダカ達です。
宇宙で魚を飼うのは大変
宇宙空間でメダカを飼育するには様々な問題があります。
打上げに多額の費用が掛かるスペースシャトルに余分な機材は積み込めません。積み込む機材の重量はグラム単位で管理されています。水質を維持する為に必要な水換え用の水を持ち込む余裕すらありません。コロンビア号以前の魚類の実験では、水質悪化の危険があるためエサを与えずに実験を行っていたそうです。
今回の実験では最小限の水の量でメダカを健康に飼育して、さらに産卵させる事が目標です。 繁殖を成功させるためにはエサを与えないわけにはいきません。そこで水質の劣化を極力防ぐことのできる新しい給餌システムと新しいエサとの開発が必要となりました。
宇宙でのメダカの飼育設備
右の写真がコロンビア号で撮影された実際の飼育槽です。無重力の宇宙空間で撮影していますので、水中の気泡が丸くなっています。飼育槽の下部分に見えるのが、食べ残しを無くすために開発された給餌システムです。詳しくは下の図になります。
エサは4つの小区画に分かれて給餌システムに収められています。エサは水に触れていないので、劣化したり水を汚す事はありません。ネジを回転させるとエサが給餌口に進みます。給餌口で水に触れたエサは膨らんでメダカが食べられるようになります。この時、他の区画のエサは水に触れないので水質悪化につながりません。このシステムならエサの食べ残しを飼育槽に残さずに、メダカが必要とする量のエサを与える事が可能になります。
給餌機構のシリンダー。
A.シャトルへの搭載前、新しい宇宙食がつまっている。
B.宇宙から帰還後のシリンダーの状態。右端の区画が最後に与えられたえさ。エサは水を吸うと膨潤し、給餌口(開口部)から盛り上がり、メダカはこれをつついて食べる。どの区画のエサも、給餌口からメダカの口先が届く範囲までは、ほぼ食べつくされている。
メダカの宇宙食
給餌システムは完成しましたが、中に入れるエサにも技術的に大きな課題がありました。ここからがエサのプロフェッショナルである弊社の出番です。
宇宙開発事業団から要求されたエサの条件は以下のものでした。
- 水と接触すると、しっかりと膨らむ事
- 口の小さなメダカでも、つついて食べる事が出来る柔らかさ
- メダカがつついても、食べカスが水に飛び散らないしっかりとしたコシ
これらの要素はお互いに相反する為、当時の技術では製造が大変困難なエサでした。依頼を受けてから最終的に自信を持った製品を完成するまで、数々の技術革新と数年の期間が必要となりました。
数々の試作の末、完成したのがメダカの宇宙食「Hikari おりひめ」です。
「Hikari おりひめ」を乗せたスペースシャトルは無事宇宙へ飛び立ちました。 無事にふくらんでくれるだろうか?エサが原因で実験が失敗することは無いだろうか?様々な懸念がありましたが、「Hikariおりひめ」は期待通りの性能を発揮してくれました。
宇宙メダカムービー
宇宙空間でメダカがおりひめをついばんだ記録が下の動画です。 4匹のメダカが合計43個の卵を産卵し、そのうち8匹が宇宙で孵化しました。無重力下でも脊椎動物が繁殖することが確認された初めての瞬間です。
メダカの宇宙食「Hikariおりひめ」と同様の技術を活用したエサを観賞魚用として販売しています。大型肉食魚のエサ「ひかりクレストカーニバル」や「ひかりクレストキャット」が、その代表例です。口当たりに配慮した柔らかさと水を汚さないしっかりとした性質を兼ね備えたスポンジ構造がマニアの方のご支持を頂き、現在もご好評頂いています。
※本記事は、1994年7月に、スペースシャトル「コロンビア号」で行われた宇宙メダカ実験の研究代表者である井尻憲一先生が作成した「宇宙メダカ実験の全て」を改編したものです。より詳細な実験内容、実験結果をお知りになりたい方は、こちらをご覧ください。