上:バリウム25%プロリア
下:プロリア
山崎研究所にて、魚のレントゲン写真を撮影しましたので、その内容についてご紹介します。
レントゲン写真を使うと、魚を傷つけることなく体の中を観察できます。
まず、金魚がエサを食べた後にどうなるのか調べてみました。
エサはレントゲン写真に上手く写りませんので、人間の健康診断に使われるバリウムをエサに混ぜてレントゲンに写るようにしました。
エサを食べた直後。
口の中にエサがある状態
これが咽頭歯。
咽頭歯で砕かれたエサが腸管に送られている
金魚の口には歯がありませんが、ノドの部分に咽頭歯(いんとうし)と呼ばれる歯があります。この咽頭歯は強力なもので、鯉の場合タニシをゴリゴリ砕く事が出来ますし、10円玉を曲げた例もあるようです。
この写真ではエサが咽頭歯で砕かれる前後の状態が良くわかります。エサが口の中にある状態では粒の形を保っています。咽頭歯を通過した後では、粒の形が無くなっている事が分かります。また、金魚には胃がありませんので、ドロドロになったエサは直接腸に送られます。
別の試験で、給餌直後の金魚を解剖しました。咽頭歯を通過したエサはドロドロのペースト状になっていました。
その後、経過時間ごとのエサの動きを観察しました。
経過時間 | 個体A | 個体B | 個体C | 個体D |
---|---|---|---|---|
30分 | ||||
2時間 | ||||
3時間 | ||||
6.5時間 | ||||
19時間 |
給餌後30分後には完全に粒の形が無くなり、徐々に腸管を移動していく事が分かります。
同じエサを与えても、個体によって腸管での移動速度や状態が異なる事が分かります。
別の例として、オスカーという熱帯魚で同様の撮影を行いました。オスカーは南米に住む肉食魚で、小魚やエビなどを食べています。
オスカーは金魚とは異なり、胃を持っています。咽頭歯はありませんので、丸のみされたエサが直接胃に送られます。
こうした魚では食べた後のエサがどのように変化していくのでしょうか。
経過時間 | 個体A | 個体B | 個体C |
---|---|---|---|
給餌直後 | |||
1時間 | |||
18時間 |
給餌直後のレントゲン写真を見ると、丸呑みしたエサが粒の形を保ったまま、胃に入っている事が分かります。
胃に滞留したエサが腸に送られるまで、しばらく時間が掛かっています。
このタイプの魚ではエサの固さや吸水速度が消化に影響しやすい事が分かります。逆に咽頭歯を持った魚は、エサをガリガリに砕いてしまうので、それほど固さは重要でないことが推測されます。
次に、転覆を起こしているらんちゅうの浮袋を観察しました。金魚の浮袋は前室と後室と2つに分かれています。
今回観察した転覆個体では浮袋が片方しかありませんでした。
浮袋が無いと必ず転覆を起こすかというとそうではなく、前室あるいは後室のいずれかが無くても転覆を起こさない個体もいますし、外見上浮袋に異常が無くても転覆を起こす個体もいます。
浮袋に異常がある個体の方が、転覆を起こす可能性が高いのでしょうが、比重をうまく調整出来ていれば、浮袋に異常があっても転覆を起こさないようです。
金魚の場合、浮袋と腸が管でつながっており、浮袋を凹ませるときは腸にガスを送り込みます。管と腸の開閉は括約筋で行っています。
転覆病の個体ではこの調整機能に異常があるようです。
健康な個体では、かなり自由に浮袋の大きさを調整できます。浮上性のエサで転覆を起こすと言われることがありますが、エサに含まれている空気や給餌中に空気が消化管に取り込まれたとしても、この程度の量では、浮き袋の調整の範囲内で、転覆を引き起こすことは無いと考えられます。
転覆病は一つの原因で引き起こされるものではなく、幾つかの要因によって引き起こされます。個体によって原因は異なるので、一つの対策ですべての個体を回復させるのは難しいと現時点で考えています。
通常個体の浮袋
転覆個体の浮袋